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2024年7月1日更新

健康な未来のために 女性のためのがん検診

20年経っても消えない“後悔”――
がん経験者として伝えたいこと

原千晶さんインタビュー【前編】

原千晶さん

30歳で子宮頸がんを発症
定期検診を怠り、35歳で子宮体がん

30代で子宮頸がんと子宮体がんの2つのがんを経験した女優の原千晶さん。現在は自身の経験をもとに、がん検診の啓発活動や患者会の運営などに積極的に取り組んでいます。最初のがん宣告から20年。闘病を振り返り、今改めて思うこと、現在の様子を前後編でお届けします。

この記事は2024年4月に収録した講演動画を元に作成したものです。

原千晶(はらちあき)さん 北海道帯広市生まれ。1994年に芸能界デビュー、TVや雑誌などを中心にタレントとして活動。30歳の時に子宮頸がんとなり、その後35歳の時に再び子宮体部と頸部にがんが見つかり、手術と抗がん剤治療を行う。自身のがんの経験から、2011年7月婦人科がんの患者会「よつばの会」を設立。

「月経の不調は自分で治すもの」という意識があった

 私はもともと月経痛が重いほうで鎮痛薬をよくのんでいました。異変を感じたのは30歳のとき。いつもの1.5倍くらい激しい痛みに襲われ、最初は「年齢のせいかな」と軽くとらえていました。でも、おりものの異常や不正出血の症状が出始めて、やっぱりおかしいと。
 少し生々しい表現になりますが、血液が混じったようなおりものが出るようになっていたのです。いつもと違う状態だとわかっていましたが、結局、病院には行きませんでした。実はこのときまで婦人科検診をしたことがなく、病院へ行くことに抵抗がありました。そして何より「月経の不調は自分で治すもの」という意識がありました。

30歳で子宮頸がんを発症

 それから一日中下腹部がドーンと痛む日がつづきました。ついに我慢の限界を迎え、知り合いから紹介してもらったレディースクリニックを受診したところ、子宮の入り口(頸部)に何かできものがあることがわかりました。すぐに大学病院を紹介してもらい、精密検査をすることになりました。ちょうど20年前の2004年の末ごろのことです。
 精密検査の結果、子宮頸部に13mmの腫瘍が見つかりました。腫瘍と聞いて嫌な感じはしましたが、良性のポリープだろうとあまり深刻にとらえていませんでした。医師からは「腫瘍を円錐切除術で取り除き、病理検査する必要がある」との説明を受けました。
 そして翌年2月に手術をしました。手術自体は目が覚めたら終わっていたという感じで、入院も3日間ほどでした。母が上京して寄り添ってくれて、病理検査の結果を聞いて安心して帰ってもらうつもりでした。「腫瘍がある」といわれても、まだどこか他人事で、「まだ若いしがんになるはずない」という思い込みがあったんですね。
 しかし、検査結果を聞きに行くと、主治医から「子宮頸がんです」とはっきりと告げられました。母も私もあまりの衝撃で頭が真っ白になり、言葉が出てきませんでした。さらに、「進行が早い可能性があるから、子宮を摘出したほうがよい」と医師はつづけました。
 当時、私は30歳です。将来子どもを産みたいと思っていたので、「がん」という診断はとてもつらかったのですが、それ以上に子宮を失う可能性があることのほうが、何十倍もつらく涙が止まりませんでした
 病理検査の結果、私の子宮頸がんは粘膜組織の扁平上皮細胞から発生する「扁平上皮がん」でステージはⅠA 1期でした。ステージⅠとはいえ、進行が早く悪性度が高い可能性もあるため、再発や転移のリスクを減らすために子宮を摘出する手術をすすめられたのです。
 主治医の説明は理解できました。ただ、それまでなんの疑いもなく子どもをもつ未来を想像していたため、気持ちの整理がまったくつきませんでした。私は子宮を失う覚悟を決められず、子宮を温存する選択をしました。

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子宮頸がんは、子宮の入り口の細い部分(子宮頸部)にできるがんで、30~40代を中心に、若い人もかかるがんです。20代後半からふえはじめるので、「まだ若いから」という油断は禁物です。

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定期検診を怠り、子宮体がんを発症。子宮を全摘出

 主治医は私の選択を尊重してくれました。その代わり、「1カ月に1度の検診は必ず受けて、問題があればすぐに手術をする」と約束をしました。当初は毎月欠かさず通院していましたが、手術から2年経ったころから「体調もすごくよいし、月経も順調に来ている。病院にいかなくても大丈夫」と、次第に足が遠のいていました。――これが、20年経った今でもいちばん後悔していることです。
 定期検診に行かなくなって2年半がたったころ、再び重い月経痛と不正出血をおこすようになりました。そして、以前と違う症状として無色透明の水のようなおりものが出るようになっていました。あとで知ったのですが、これは子宮体がんの一つである子宮体部類内膜腺がんの特徴だそうです。
 人生で経験したことのない痛みに襲われ、以前に受診したレディースクリニックへ行くと「一刻も早く大きい病院へ行ってください」と医師から告げられました。
 そして大学病院で検査をすると、子宮体部に新たながん(子宮体がん)が確認され、さらに骨盤の中のリンパ節に転移しはじめていることがわかりました。
 がんがどれほど恐ろしいものなのか思い知りました。なぜ、検診をサボってしまったのだろう……。後悔しても遅く、涙が止まりませんでした

早期発見・早期治療に勝るものはない

 2度目の病理検査の結果は、「子宮体がんのステージⅢC」でした。
2010年1月、子宮、卵巣、卵管などのすべての生殖器と骨盤内のリンパ節を取る「広汎子宮全摘出術」という大手術をしました。
 手術後、体力が回復したころに抗がん剤治療TC療法)をはじめました。2種類の薬を3週間ごとに1回ずつ投与する療法で、全6回を終えたのが2010年5月の終わりごろです。
 自分の体調を過信し、勝手な自己判断で定期検診を怠ったことは、悔いても悔やみきれません。私が2度のがんを経験し伝えたいことはたった1つ、がんという病気は「早期発見・早期治療に勝るものはない」ということ
 がんになって、自分一人だけでなく家族をはじめ、夫にもつらい思いをさせてしまいました。

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子宮頸がん
子宮の入り口(頸部)にできるがんで、HPV(ヒトパピローマウイルス)への感染によって引きおこされる。30代後半から40代で発症のピークを迎えるが、20代でも罹患する。
子宮体がん
赤ちゃんが育つ「子宮体部」の内側を被っている子宮内膜から発生するがん。40代後半から発症リスクが増加し、50~60代で発症のピークを迎える。
不正出血
月経以外で性器から出血すること。不正性器出血ともいう。病気ではない場合もあるが、子宮頸がん、子宮筋腫、子宮内膜症などが原因の場合もある。
子宮頸部
子宮の下から3分の1の腟につながる部分。上の3分の2は子宮体部と呼ぶ。
円錐切除術
子宮頸部の一部を円錐状に切除し、病変の広がりなどを調べる。早期であれば病変を完全に取り切る治療として行うこともある。
病理検査
がんの一部(組織)を採取して、病理専門医が顕微鏡で観察し、どのような病気であるかを診断する検査。病気の診断確定や病気の広がりなどを知ることができる。
ⅠA 1期
がんが子宮頸部にとどまっていて、間質への浸潤の深さが3mm以下の段階。
子宮温存
病変のみを切除して、子宮を残して出産ができるようにする。
子宮体部類内膜腺がん
子宮体がんは、顕微鏡でのがんの見え方によって「類内膜腺がん」「漿液性がん」「明細胞がん」などの組織型に分かれる。子宮体がんの約8割が類内膜腺がんに分類される。
子宮体がん ステージⅢC
がんが子宮の外に広がっていて、骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節に転移があるもの。
抗がん剤治療
がんの増殖を防いだり、転移や再発を防ぐ薬物療法。
TC療法
パクリタキセルとカルボプラチンという2種類の異なる作用の抗がん剤を組み合わせた子宮体がんの代表的な薬物療法。